千人鼓に期するもの
世界でも稀な構造と演奏法を持つ「鼓」は室町時代に完成された能楽の歴史と共に発展を遂げて来ました。能楽以前の猿楽、更にその前の田楽に於いても、現在と大差のない楽器の形態を持つことを思うと、鼓はシルクロードを経て日本に伝わって以来、千年の歴史を持つといえるでしょう。
能楽は世阿弥の時代から将軍家大名家など、特権階級の庇護を受けながら隆盛をみて今日に至っております。その一方で、琉球から上方に伝わった三味線とコラボして、阿国歌舞伎、江戸歌舞伎に取り入れられて庶民の聞に受け入れられました。
能楽、歌舞伎音楽に欠かせぬ存在である「鼓」は桜の古木を手彫りして造形し、仔馬の皮を張り、絹と麻を縫り合わせた調緒で、組み合わせて打ち鳴らします。
日本の風土が生んだ繊細な音色と云えるでしょう。
この貴重な楽器が平成の世になって、製造する技術者が絶えました。現在使用されている鼓筒の多くは、江戸中期から明治初期のもので、確かなデータはありませんが、まだ数千丁の鼓筒が現存していると推定されます。とはいえ、先細りであることは厳然たる事実であり、数十年数百年先には「鼓と云う楽器」は消え去る運命にあると危倶する次第です。
振り返りますと、第一回目の東京オリンピックから大阪万博の頃にかけては、邦楽の世界も隆盛を極めた感がありました。あれから50余年、特に平成に入ってから日本の伝統文化が急激に衰退し、助成金や文化基金に頼ると云う現況です。
その助成金も世界文化遺産である「文楽」でさえぶった切る為政者が現れる時代になりました。千人鼓の構想、は東京のみならず、日本各地から打ち手が集結し一堂に会して「三番叟」で祝し、且つ鼓の再興を願います。
鼓演奏の心髄は一気脈を通じ相手に配慮し呼吸を合わせる事に尽きます。其処に日本人の美しい感性があります。
人のぬくもりの音「ぽーん」いま千人鼓を提唱する由縁です。
一般社団法人 千人鼓の会 会長 望月太津三郎(たつさぶろう)